原稿診断事例

【小説の場合】
Cさんへの回答

「説明」と「おはなし」の違いとは

Cさんには、SFファンタジー系の小説で原稿診断に応募していただきました。 「文章力」そのものはお持ちでしたが、正直なところ「小説」としてはいまひとつでした。アマチュアの小説には、ありがちなことです。小説を書く上で、注意すべきことは何なのか……。
ひとくちに「小説」と言っても、さまざまなスタイルがありますが、「ストーリー展開を重視するタイプの小説」にあてはまるアドバイスをさせていただきました。

実際の原稿診断より抜粋

1■結論
「文章」としては合格ですが、「おはなし」としては改善の余地あり、です。

今回の作品「○○○○○」を賞に応募した場合、一次選考を通過し佳作程度に入る可能性はあるものの、受賞には届かないレベルであると判断します。

(中略)

恋愛小説を書くとします。

(中略)

「男性が町を歩いていて、偶然、女性に出会った。きれいな女性だったから、声をかけた」

これでは、「おはなし」としては、全然おもしろくありません。出会いの場面を書かなければならないから、ひとまず情報として書いておいた、という以上の意味がありません。

では、どう書けばいいのか。

(中略)

これなら、「おはなし」としての面白さが出て、人をひきつけます。

(中略)

「桃太郎」も同じです。
「元気な男の子が一人いました」では、当たり前すぎます。主人公を登場させるために、単に文字で説明したにすぎません。「おはなし」になっていないのです。

「川から大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこ、と流れてきました」と言われれば、何ごとかと思って、聞き手は引きつけられます。さらに、おばあさんが家に桃を持って帰った → その桃の割ってみた → 桃の中から男の子が出てきた、と続くことで、個々の出来事が次々と有機的につながって、たいへん面白い「おはなし」が展開することになります。 主人公を登場させるのに、それだけ「おはなし」を費やしているのです。

以上のようなこと――「男性が女性に出会った」「男の子がいる」といった、単なる説明を超えて、人の関心をひきつけること――が「物語の展開」であり、それこそが「おはなし」なのです。

小説では、説明ではなく、おはなしを書かなければなりません。

「○○○○○」のオープニングで、主人公が海岸で意識を取り戻すというのは、現状では「説明」だと思います。そこへ、別の人物が登場する、というのも、当たり前な「説明」です。説明を順次加えているだけであり、面白い「おはなし」として展開していません。

このあたりは、○○さんに代わって弁明するならば、別世界に着いてしまった場面を、どうやって書けばいいのか、といったむずかしい問題が、もちろんあります。

40年前、50年前のSFであれば、「海岸で目が覚めた」で通用したかもしれません。あるいは、日頃小説にふれることのない人にとっては、現在でも興味を持つ書き方かもしれません。

しかし、海千山千の賞の審査員や、くわしいマニアに評価してもらおうとするならば、何らかの工夫が必要になります。そういった人たちは、すでに十分にすれっからしになってしまっているので、あまりにシンプルすぎて「ときめかない」のです。

事例として、映画の冒頭のシーンをいくつか見てみましょう。

「猿の惑星」(たまたま最近、テレビで放映していました)であれば、単に「宇宙船が不時着した」ではなく、機内の時計を見ると、西暦4000年くらいだった、ということで、未来の世界へ来た、という興味を観客にいだかせています。

「ターミネーター」であれば、全裸のアーノルド・シュワルツェネッガーが路上に突然現れ、裸のまま酒場に入っていって客の服を奪います。裸で動き回るという絵柄が、映画という視覚表現では、意外性をもたせるものになっていました。

「別の世界に現れた」という場面を表現するために、いかに独自性を持たせるかで、作り手は苦心しているわけです。

商売としてストーリーづくりをしているプロは、そういった工夫をして、「別世界に着いた」という、すでに手垢のついたシーンを、観客が興味をもつ「おはなし」や「物語の展開」につくりあげる努力をしています。

それ以外にも、「敵が目の前に現れた」等々、すべてのきっかけ、場面展開を、単なる「説明」以上の「面白いおはなし」に置き換えていく作業が必要です。

そういう観点で見てみると、「桃太郎」も「一寸法師」も「かぐや姫」も、昔話というのは、たいへんよくできた、人をひきつける「おはなし」であることがわかります。
多くのハリウッド映画もそうです。(好き嫌いはともかく)

メールで○○さんは「(自分が書いた原稿が)いいのか、悪いのかも判らない」と書かれていましたが、いい悪いで言えば、「文章としては」悪くない(文章力が優れていることはわかる)のです。

しかし、「おはなしとして」、面白いのか、つまらないかと問われると、今の状態では、つまらない、というか、まだ「おはなし」になりきっておらず、「説明」に近く、わくわくしない、ときめかない、という答になります。

文章じたいは水準以上で書けているので、一次選考は通過する。しかし、当たり前の説明が続き、わくわくしない、ときめかないので、二次選考や受賞には届かない、という状況なのです。(後略)

上記のような結論のほか、作品全体の構成の改善方法やストーリーの作り方などを回答させていただきました。 ※ストーリー展開を重視した小説での診断事例です。小説によってはストーリー展開に重きをおかない作品もあり、それらはまた違った観点から診断します。

※ちなみに、桃太郎が桃から誕生したというのは、明治時代に学校で「桃太郎」の話を教えるために改変されたストーリーだそうです。元は、桃の実を食べたおじいさんとおばあさんが精力を回復し、高齢であるにもかかわらず桃太郎を妊娠・出産した、という話だったそうです。「おじいさん」「おばあさん」といっても、昔は30代〜40代のケースもあり(平均寿命が40代くらいだったので) 「おばあさんの妊娠・出産」は現在の高齢出産のようなもので、ありえない話ではない、という見方もあるようです。

※応募者個人を特定する情報や、応募作品ならではのアイデアには触れない範囲で、原稿診断の原文をそのまま公開しています。